Infinito Nirone 7

白羽の矢を刺すスタイル

持久力と瞬発力を兼ね備えた実用的な筋肉の育て方

この記事は 筋肉 Advent Calendar 2016 - Qiita 17日目の記事です。

1.はじめに

エンジニアにとって筋肉は非常に重要です。曰く「筋肉はすべてを解決してくれる」と。

しかし、筋肉もただつけているだけではウドの大木、無用の長物です。筋肉があるのにそれを使わないのはもったいないというほかありません*1

エンジニアにとって必要な素質に、持久力と瞬発力があります*2。 粘り強くバグと戦い、突発的な外乱要因でも強くまっすぐ立ち続ける持久力、そして困難を鋭く解決する瞬発力は常日頃の鍛錬があってこそ。そしてそれを体全体でバランス良く備えることが重要です。 そこで、今日は持久力と瞬発力を兼ね備えた実用的な筋肉の育て方を紹介します。

2.持久力と瞬発力を必要とする競技を参考にトレーニングを考える

持久力と瞬発力を鍛えるには、それらを必要とする競技での鍛え方にならうのが近道です。 ぱっと想像してみると、水泳・柔道・体操・自転車などいくつかの競技が思い浮かびます。 このなかで、常に外からの力に耐え、いざという時にスッと120%の力を出し、体全体をつかう競技、それは器械体操です。もしかすると、柔道のような格闘技系の競技にも通ずるトレーニングがあるかもしれませんが、筆者自身が器械体操を経験しているので、この記事でも器械体操流の筋トレ方法を述べます。

一旦、ここで器械体操(体操競技)について少し解説します。器械体操とは、男子6種目(ゆか・鞍馬・吊り輪跳馬・平行棒・鉄棒)と女子4種目(跳馬段違い平行棒平均台・ゆか)で各選手が演技を実施し、それぞれの点数の合計を競う競技です。器械体操の点数と言えば以前は10点満点でしたが、現在は上限がありません。採点方法は概ね、実施する演技の出来栄え(Eスコア)と難易度(Dスコア)で決まり、出来栄えは10点からの減点方式、難易度は加点方式です。フィギュアスケートの採点方法に近い部分がありますすね。種目によって多少の違いはありますが、腕や足を不必要に曲げない、着地が乱れない、演技の流れを止めない、動作を止めるときは2秒以上の静止をする、といったことが出来栄えの点数に影響し、実施する技の難しさが難易度の点数に影響します。難易度の高い技を数多く実施すればその分の加点が得られますが、その分実施が難しくなり、少しのミスで出来栄えが損なわれるリスクがある、というのがミソです。

器械体操の選手はどの選手を見ても筋肉隆々ですが、無駄な筋肉はなく、必要最低限の筋肉がついています。選手の筋肉でもっとも重要なのは、自重を支えたり外からかかる力に耐えるための体幹部分の筋肉です。選手のトレーニングには、ジムにあるような器具をつかわないトレーニング、器具をつかったトレーニングそれぞれメニューがあります。この記事では、器具を使わない基礎トレーニングを中心に述べ、番外編として器具を使ったトレーニングにも触れます。

3.腕から肩にかけての鍛え方

器械体操では、肩が重要な役割を担っています。さまざまな技の根幹をなす姿勢に倒立があり、この倒立を美しく持続するために肩を使います。倒立というと腕の力をつかうもののイメージがあると思いますが、実際には肩でバランスをうまくとって*3、肩に体重をのせるようにします*4

肩に体重をのせバランスの取れた倒立をするには、もう一つ重要な姿勢のとり方があります。よく「胸をつる*5」とか「胸をふくむ」といった表現をしますが、胸の前に少し空間を作るように引くことを言います。柔道などの格闘技で構えたときの形ということもできるかもしれません。これをいかにキープし続けるかがポイントで、腕から肩にかけてのトレーニングも基本はこの姿勢を維持することを念頭に置いて実施します*6

3-1.腕立て伏せによるトレーニング

先ほどの「胸をつる」姿勢をとるため、脇はつねにしめて腕を曲げ伸ばしします。手の位置は「肩の真下」「肩の真下より外側」「肩の真下より内側でほぼ重ねる」の3パターンです。 筆者が高校生のときの部活でのメニューは「30回の腕立て→30秒伏せる→20回の腕立て→20秒伏せる→10回の腕立て→10秒伏せる」を1セット、練習前のアップに組み込んでいました。

3-2.倒立によるトレーニング

倒立によるトレーニングにはいくつかのパターンがあります。ここでは2つ紹介します。

ひとつは倒立しながら腕を曲げ伸ばしを行うトレーニングです。 壁に腹を向け、手を壁から少し離した状態で倒立をします。足先を壁につけたらすこし腕を曲げ、そこから腕を伸ばしきるまでに足を自分の真上に移動させ、倒立の姿勢で2秒静止します。その後また足を壁につけ、倒立の姿勢へ戻す、を繰り返すトレーニングです。慣れると壁なしで実施することもできます。

このトレーニングでも、脇はしっかりしめ、胸をつる姿勢をキープします。

もうひとつは、倒立しながら歩行するトレーニングです。 倒立の姿勢が安定してきてから実施しましょう。文字通り、腕を足のように動かして倒立しながら歩きます。慣れると10mや20m歩くこともできます。

4.腹筋・背筋の鍛え方

腹筋・背筋ともに姿勢維持には欠かせませんが、器械体操においては特に宙返りなど体を回転させる力を生むためにも頻繁に使います。姿勢維持には持続力が求められますが、体を回転させるにはコンマ数秒の一瞬のうちにパワーを発揮する必要があります*7

4-1.瞬発力のためのトレーニング

瞬発力のための腹筋のトレーニングはいわゆる V 字腹筋です。背筋に応用することも出来ます。 筆者が高校生のときの部活でのメニューは「30回 V 時腹筋→30秒姿勢を固定→20回 V 時腹筋→20秒姿勢を固定→10回 V 時腹筋→10秒姿勢を固定」を1セット、腹筋と背筋、側筋*8それぞれ練習前のアップに組み込んでいました。姿勢を固定するとは、上体と両足を少し床から浮かせたところで止め続けることを言います。

4-2.姿勢維持のためのトレーニング

宙返りを始めとして体を回転させるとき、腹筋・背筋を姿勢維持につかいます。体が回転しているときに姿勢維持ができないと、回転力が失われたり、最悪回転が止まってしまいます*9

姿勢を維持するには、トレーニングの段階でその姿勢を覚えこめるよう、実際の技の実施にちかい姿勢でトレーニングをすることが大切です。また、演技のなかで体の動きを止めるときには、2秒間の静止が求められるため、できるだけ長く同じ姿勢を続けるトレーニングをすると効果的です。

具体的なトレーニング方法としては腹筋・背筋・側筋ともに、上体と両足を少し浮かせた状態で体を固定し、その状態でシーソー(あるいはゆりかご)のように体を腰付近を中心に動かします。このとき腕はまっすぐ頭の上に伸ばすようにしたり、腹筋・背筋の前に手を置くようにするなどします。V 字腹筋等のトレーニングに慣れてきたら挑戦してみましょう。

5.足腰の鍛え方

器械体操の演技では、すべての種目で着地をとることになります。着地はかならず足を使うので、跳馬や鉄棒のように猛烈な勢いのついた体をピタリと止められるよう、こらえる力が求められます。仮に着地をとりそこねてバランスを崩したとしても、一歩うごくだけに収めるなど、ひたすらこらえる力が求められます。 特に 6 種目のなかでも、ゆかはかなり足を使う種目です。着地も多いですが、宙返りやバク転を連続して実施するので、ジャンプ時の反応の良さも大切です。

5-1.ランニングによる基礎トレーニング

特別難しいことはしません。基礎トレーニングとしてはランニングを活用します。 30分ほどのランニングをすると程よく体があたたまりますが、トレーニングとしては緩急をつけた走り方が重要です。周回コースをランニングする場合であれば、ある一箇所から30〜50mを全力ダッシュで走りつつ、他は自分のペースを守って走る、というメニューを組むとよいでしょう。

5-2.ジャンプ力のトレーニング

ジャンプ力をつけるにはいくつかの方法があります。スクワットがもっとも知られたトレーニングだと思いますが、膝や腰を痛めやすいので正しい姿勢を意識してゆっくりやりましょう。慣れてきたらウェイトを背負うなどしてスクワットをしてみると良いです*10

器械体操の場合、連続してジャンプをするためのトレーニングもあります。と言っても特別器具を使うわけでもなく、そのまま連続ジャンプをするだけです。真上に飛ぶことを心がけつつ、着地をしたら素早く次のジャンプにうつります。ジャンプをする時、両腕を肩の高さまで振り上げると、宙返りの練習っぽくなります。

6.道具を使った鍛え方

身近にある道具を使ってトレーニングをすることも出来ます。ジムにあるような器具を使わなくてもしっかりトレーニングできるのでおすすめです。

6-1.ゴムチューブを使ったトレーニング

ゴムの弾力性を用いて腕や肩を鍛えるトレーニングです。使用するゴムチューブは自転車の破れたチューブを組み合わせたものでもよいですし、スポーツ用品店で売られているゴムチューブでもよいです。 チューブは何かに巻きつけて両手に持って使います。ゴムもそこそこ強いものをつかうので、巻きつけるものは電柱や公園の鉄棒の支柱など、しっかり固定されているものを選びましょう。

チューブの使い方はおおむね 2 種類で、体を巻きつけているものに向けるかその逆かになります。どちらの場合でも、腕は真っすぐ伸ばして動かします。

腕の動かし方は、1.)両腕を脇を締めた状態で前後に動かす、2.)両腕を左右にひらき前後に動かす、3.)両腕を真上に伸ばして前後に動かす、の 3 種類あります。ゴムチューブがすこし伸びている位置を基準に、巻きつけているものに体を向ける場合は腕を引き、背を向けている場合は腕を押すように動かすと効果があります。腕を押すように動かすときは、押し切ったところで胸を開かずつる姿勢になることを意識するとよりよいトレーニングになります。

6-2.プッシュアップバーを使ったトレーニング

器械体操の技に「脚前挙」というものがあります。長座の姿勢で体を腕で支える技です。これをプッシュアップバーを掴みながらじっと静止するだけでもよく効きます。

6-3.ダンベルを使ったトレーニング

側筋のトレーニングにダンベルが便利です。手順としては、1)片手にダンベルを持ち、2)もう片方の手を頭の後ろに添えて、3)ダンベルをもっている方に体を倒したら、4)ゆっくりもとの姿勢に戻す、というものです。腰の位置は常に一定にし、ダンベルが体に当たらないようにするとよく効きます。

あるいは、両手にダンベルを持ち下におろした状態から、腕を左右に開いたり、肩の高さまで前方に突き出したりというトレーニングもあります。

7.番外編:器具を使った鍛え方

なかなか身近なところに器械体操の器具を置いている体育館はありませんが、もし器具に触れる機会があったら是非試してみてください。

7-1.平均台でのトレーニング

平均台は女子選手の種目ですが、トレーニングとしては男女問わず使える器具です。

足を両側に開き、平均台に両手をついて腰を浮かせた状態で平均台を移動します。胸をつる姿勢を維持し続けないとすぐに辛くなってしまいます。できるだけ足を水平に保つときれいな姿勢になります。

7-2.平行棒でのトレーニング

平行棒は、両脇に 2 本の棒を抱え込むようにぶら下がる姿勢と、両腕を真っすぐ伸ばして体を支える姿勢の 2 種類の体勢のとりかたがあります。

両脇に平行棒を抱え込む姿勢は、自然と上腕の下に棒が当たります*11。物理的にどうしても脇が開きがちになるので、脇が開いた状態からグッと閉まった状態にすることを繰り返すと、それだけでトレーニングになります。

両腕を真っすぐ伸ばして体を支える姿勢の場合、肩を中心に体を前後に振り子のように振る動きができます。これをスイングといいますが、スイングしながら腕を曲げ伸ばしするトレーニングがあります。ちょうど体が床に対し垂直になるところで腕を曲げきり、前後に両足が出るところで腕を伸ばしきる要領です。このトレーニングでも、胸を開くような姿勢になるとただひたすら辛いだけなので、胸をつる姿勢を意識します。

7-3.吊り輪でのトレーニング

吊り輪は器械体操の種目の中でもほぼ唯一と言ってもいいほど不安定な種目です。2 つの輪が天井からぶら下がっている様は電車の吊革にも似ていますが、吊革よりも動きに自由度があり、本当にブラブラとぶら下がっているだけなので、吊り輪をつかった力技をする場合は、輪が自由に動き回らないよう押さえつけ安定させる力が求められます*12

吊り輪で脚前挙がピタリと止められるようにするだけでも、かなりのトレーニングになります。力がついてきたら、倒立をしてみるとよいでしょう。倒立がこわいときは、輪をぶら下げているケーブルに足を絡めると多少安定します。

8.おわりに

器械体操流のトレーニングで体幹を鍛えることで、持久力と瞬発力を兼ね備えた実用的な筋肉が鍛えられます。 器械体操の選手の筋肉はみなムキムキマッチョを絵に描いたような感じに見えますが、実はジムにある器具をガンガン使って鍛えたものではなく、自分の体を支え、あらゆる方向からかかる力にたえて制御するために特化したものです。 ですから、過度なトレーニングは逆効果なうえ、体を壊してしまうこともあります。ほどよく筋肉をつけ*13、強い体を作りましょう。

もちろん、筋トレのあとはしっかりストレッチをし、プロテインの摂取を忘れないようにしましょう。

*1:個人の感想です

*2:個人の感想です

*3:私は肩の柔軟性が最悪で、冗談抜きに肩が硬かったので苦労しました

*4:人間が立ったとき、重心が骨盤のあたりにくるというのを逆さまに考える、というイメージが近いでしょうか。

*5:筋肉が痙攣することではありません。

*6:ガンバ! Fly high という漫画で「胸で回転する宙返り」というものが出てきますが、胸で回転する宙返りは「胸をつる」姿勢を身につけるとできるようになります。

*7:体を縮めて体操座りをするように抱え込む姿勢の宙返りを後ろ向きに実施する時には、ジャンプ直後に足を素早く胸の前まで引き上げるために腹筋の瞬発力を使います。

*8:筋肉の名前としては腹斜筋。おなかの横にある筋肉。

*9:筆者も経験がありますが、回転が止まると一瞬世界が止まって見え、気がつくと既に体は落下し始めていて、1秒もしないうちに床に叩きつけられます。

*10:ただしやはり膝や腰を壊しやすいので重すぎるウェイトトレーニングはやめましょう。

*11:当たる部分に体重がかかるので、慣れても痛い。トップ選手は平行棒のうえで宙返りをして腕で受けるので尋常じゃなく痛そう。

*12:初めて吊り輪を体験したときは、力不足で脚前挙をしただけで輪がブルブルと動いてまったく静止できませんでした。

*13:いわゆる細マッチョくらいの付け方でもOK。