この記事は、SHIROBAKO Advent Calendar 2015 12 日目の記事です。勢い良く参加登録したものの、本人がサンフランシスコ出張のため日付がこんがらがっています(日本標準時-17時間が西海岸の時間です)。
今回は、SHIROBAKO の物語を見ていくうえで「杉江さん」は欠かせない存在だと思ったので、僭越ながら筆を執らせていただきます。ネタバレを多分に含むので、これから SHIROBAKO をご覧になる方はお気をつけ下さい。
杉江さんと仕事
ご存知の通り、杉江さんは業界歴の長い優しい風体のおじいさんとして登場します。当初はえくそだす!とは別のアニメーションに携わっていましたが、えくそだす!のピンチに際して、納期が厳しくかつ難しいシーンを任された時に、社内の原画マンたちを束ねて無事完成までもっていったあの一連の流れは、誰もが息を呑んで見守っていたことと思います。
そんなすごい仕事をバリバリこなす杉江さんですが、SHIROBAKO のストーリーの随所で、杉江さんの仕事に取り組む姿勢が描かれています。
才能っていうのは、何よりまずチャンスをつかむ握力と、失敗から学べる冷静さだと思う。絵の上手い下手はその次だ。 僕は僕より上手い人間が、わずかな自意識過剰やつまらない遠慮のせいで、チャンスを取りこぼしてきたのを何度も見た。 惜しいと思うよ、未だにね。僕は運が良かった。
SHIROBAKO 22話
作監補佐というチャンスを前に日和っていた絵麻ちゃんに掛けた一言。自分の技術にまだ自信がなく、より大きな技量を必要とする仕事は無理なのでは、という気持ちでいた絵麻ちゃんの心境は、きっと技術を売りにする人なら誰しも一度は抱くことがあるんじゃないでしょうか。
そんな気持ちに負けないよう、でもちゃんと安心感のある言葉がこのアドバイスには詰まっていると思います。チャレンジに失敗はつきものですが、やはり失敗するのは怖いもの。でも、その失敗をちゃんと振り返って次に繋げられれば、結果良しとなるのだから、安心してよいのだよ、という意味が込められているこのアドバイスは、杉江さんのセリフのなかでもとても好きなものの一つです。
一方で、こんなアドバイスもしています。杉江さんも、これまでの長い経歴のなかで積み上げてきた努力があったからこそ、22話のアドバイスにつながったんだなって思います。
速く描くには上手く描く。 上手く描くにはいっぱい描く。 いっぱい描くには速く描く。 技術とスピードは実はまったく別の問題でね。
SHIROBAKO 7話
すこし脇道にそれますが、何となく、以下のツイートを見た時に、杉江さんのこのアドバイスとつながるところがあるなって思いました。
エンジニアは業務以外でも勉強しなきゃいけないのかって話、とりあえず1ヶ月くらいめっちゃ勉強するって決めてやってみて、なんかよかったなと思ったら無理しない程度にやりつづければいいし、後悔したならやらなくていいんじゃないかなって感じだ。自分は色々よかった気がする。まぁ結果論だけどな
— こにふぁー (@konifar) 2015, 12月 7
自分は業務以外は完全にオフに切り替わってしまうのですが、かと言って勉強をしないかというとそういうことでもないです。業務の中でも、もっといいやり方はないか考えますし、勉強のやり方という意味では本当にいろんな方法があるんだと思います。どのようなやり方であっても、それが自分に合ったやり方でうまくこなせるのであれば、自然とスピードもスキルもついてくるような気がします。 ただ一つ、しなきゃいけないでやるよりは、したくてすることのほうが圧倒的にやりがいがあるなって思っています。
杉江さんと家族
もう一つ、杉江さんを語る上で欠かせないのが「家族」です。SHIROBAKO の中では、えくそだす!のピンチを助けるシーンで杉江さんの奥さんが登場します。
杉江さんがどのような家族を築いてきたのかは分かりませんが、杉江さんが決断を下した後の奥さんの言葉は本当に素敵だと思っています。
奥さん:杉江は受けるつもりみたい、でも少し作戦が必要だって 杉江さん:明日から帰りが遅くなるよ 奥さん:お弁当2つ、作らないとね
SHIROBAKO 12話
頼もしすぎる……
絵コンテを見て、超絶難易度の作画でも「やろう」と決断する杉江さんもかっこいいですし、それを影から支えるために出来ることをサッと引き出せる奥さんもかっこいい。まさに、縁の下の力持ちという感じです。
奥さんも昔アニメーターだったことが作中で描かれているので、きっと細かい事情も含めての理解があるんだと思いますが、こんなふうに家族に支えられているってすごく幸せなことだと思います。思いやりが溢れた家族、いいですよね。
杉江さんと私
自分は社会に出てまだ4〜5年ほどで、杉江さんのようなベテランと言うほど豊富な経験があるわけではありません。どちらかと言えば、宮森のような感じで、自分の将来はどうしたいかということを漠然としか考えていなかったところもあり、ただ、現状のままではきっとダメだという気持ちだけで、藻掻いて来た結果が今なんだと思っています。今は自分の仕事にとても楽しく取り組めています。悩み事も絶えない仕事ですが、それはそれで勉強になることも多いので、楽しくやっています。
好きな事をして食べていけるのは幸せなことだ。だけどそのうち描くだけじゃ物足りなくなってくる「何か新しい目標」が必要になってくるんだ。
SHIROBAKO 8話
ただ、藻掻き苦しんでいる時でも、いつかきっと役に立つ日が来ると思えたり、そこで何とか作り上げたものが世の中に広まっていくところを見るのはすごく楽しい思い出として残っていますし、今後同じような状況にハマったとしても、やはり次に繋げるという意思で取り組んでいけると信じています。
宮森さんがアンデス・チャッキーを観て笑顔になってくれたのなら、こんなにうれしいことはないよ。
SHIROBAKO 12話
そして最後に、自分たちが頑張って取り組んだことに価値が生まれて、こんなふうに語れる日が来ることを願ってやみません。
取り留めのない話になってしまいましたが、つまり何が言いたいかというと、杉江さんみたいな、すごくて謙虚で優しい神様のような人が身近にいたら間違いなくその人についていくと思うし、また、自分も杉江さんのような人間になれたら良いなということです。
現場からは以上です。